生産者紹介

中国・四国ブロック ブロック長 果樹部門講師 道法 正徳 氏          

自然栽培果樹のパイオニアー 道法 正徳 氏


 自然を観察する目はもちろん、科学的な要素を用いた剪定方法を行ないます。今日も全国を飛び回わり、自然栽培の普及に努めています。

■非常識な果樹栽培  常識の逆に自然界のあたりまえがあった!
 道法さんの技術は、樹の植物ホルモンのバランスを活かした技術にあります。そしてその技術は、樹の本来の姿を自然から読み取る中で、道法さんが体得してきたものです。山の樹が肥料や農薬で育ってはいないことや、現代の農学の実践でことごとく失敗してきた体験が元となっています。

 広島果実連で農業普及員をされていたころ、700 軒の農家にある技術を指導して、700 軒ともまったくうまくいかなかったということがありました。1 軒くらいうまくいくところがあるのならまだしも、だれもいい結果がでない。

 「いったいこれはどういうことなのか……!」

 道法さんは、思いました。

 「何かがおかしい」

 「何かが間違っている」

 普通なら「そうはいっても、みんながこう言ってるし」

 「それが常識だし」

 「ほかの事はなかなかいえない」

 そう思うところです。

 しかし、道法さんは正義感をもって取り組みます。

 みかんの樹の下に生える草を刈ることをすすめたけれど、結果が出ない……。
 その常識も間違っていた……。

 土を耕して樹の根を切ることで、新しい根が出て、養分を吸いやすくするという技術もだめだった。どれもこれも、うまくいかない……

 そしてついに道法さんは、「常識の逆」をテストしはじめます。その結果、さまざまな常識の逆を行ったとき、いい結果が出てくることがわかってきたのです。私たちも道法さんの指導されている果樹園を訪問してきました。そこには通常では信じられない世界が広がっていました。


■果樹の生理を活かしたせん定とは……
 通常果樹の栽培においては「剪定」という枝を切ったり仕立てたりする技術が、一つの重要な技術となります。樹の枝は幹から横へ広がるように伸びます。この横へ伸びた枝の背に、毎年、徒長枝という枝が上に向かって伸び出します。一般的にはこの上に向かって伸びる枝を切ってしまいます。なぜなら上に向かって伸びる新しい枝にはいい実がならないといわれているからです。

 それこそ徹底的に上に向かって伸びる新しい枝を切るわけです。

 しかし、ここでも道法さんは、常識の逆を試します。この徒長枝を活かすせん定に気づきます。前述のように、道法さんは、連合会から派遣でJAの農業指導をしていたときに、一般の農学の技術を徹底して指導もされたようです。また、そのことを自分でも実家の農園で実施しましたが何年たっても、理論どおりの結果が出たことはなかったといいます。

 その他、ミカンでは放任した園地の初年度のミカンが実においしいことはみんなが経験しているのです。


■かいよう病が消えた! 決定的に肥料ではないと実感した瞬間
 肥料ではないことに気づき始めた道法さんが、その意志を決定的にしたことがありました。それは「かいよう病」という細菌性の病気の伝染が、肥料を使わなかったレモンの樹で全く見られなかったことがきっかけでした。

 「かいよう病」は、果樹栽培において、みかん、レモン、キウイフルーツなどでも、猛威をふるう細菌性の伝染病。たとえば、病気の樹をはさみで剪定し、そのはさみで他の健康な樹を切ると、たちまち移ってしまうほどの病気です。

 産地によっては、農薬を撒いても、樹が全滅することもあったほど。

 道法さんも、広島でレモンの栽培をされているのですが、山の奥にある畑があって、土日百姓では手の回らない土地がありました。そんな情況なので到底肥料を与えることはできず、農薬も使っていませんでした。いわば放任だったのです。

 草刈をしなくてはと思って、草を掻き分け掻き分け畑にたどり着くと、肥料を与えていない、たまたま放置されていた草だらけのレモンの樹に、かいよう病が全く出ていなかったことに驚愕されます。まさに腰が抜けそうだったというのです。

 そして、そのヒントから肥料に原因があったことを、同じく直感されたのです。道法さんも、ますます自然栽培の可能性を確信したとおっしゃっています。「もう、これしかない!残りの人生のすべてを自然栽培にかける!」と……。

 ちょうどその年、2007年に道法さんと私たちナチュラル・ハーモニーは知り合うことができ、取り組みを一緒に行うようになりました。


■植物ホルモンとの出会い
 自然栽培に出会う以前、前述のせん定にいきついたのは、農文協の「せん定を科学する」(発刊当時、弘前大学の菊池著)という本でした。そこには「せん定の方法で、樹の植物ホルモンが変わってくる」とあったのです。

 それをみて、まさに目からウロコが落ちるような心境!菊池先生にも、直接電話し植物ホルモンの働きを伺い注目するようになりました。

 植物は、新しい枝を伸ばしその先端に花芽をつけます。先端から順番に養分が貯まりますので(頂芽優勢の原理)先端ほどよい果実がなります。

 また、根で作られた植物ホルモンのジベレリンとサイトカイニンが導管を通って、新しい枝の先端に行って発芽を促し新芽が伸びます。

 そして、その新芽でオーキシンというホルモンが作られ根まで運ばれます。

 このオーキシン、根に到達して濃度が薄い時には発根し、濃度が濃くなれば発根が止まるというのです。

 ところが現代の農学では、この徒長枝を剪定してしまうので、植物は根を傷めてしまいます。結果、樹勢が弱くなり病気になりがちになります。肥料を与えてなんとか育てようとし、無理をするので病気がさらに出る。だから農薬を使わなくてはならないというのです。一般的にも、剪定で枝を切るのは全体の20%までといいます。枝を傷つけることはイコール根を傷つけることになります。

 この徒長枝をなぜ一般的に切るかといえば、徒長枝は結実しにくいことと樹形を乱すといわれているからです。

 また徒長枝を伸ばすと、樹が高くなり作業性が悪いと言われます。しかし実際には実がたわわに実り、その重みで枝が下がってくるので、作業的にも困らないと言うのです。

 これはほんの一部の話ですが、当たり前といえば、当たり前、非常識といえばあまりにも非常識な話。いかに私たちが一般的な観念に縛られて、ありのままに自然を捉えられていないかを痛感しました。


■自然栽培の肥毒を考えても合理的
 自然栽培において、樹に残留する肥料や農薬を取り除くことが重要な課題としてあります。

 樹からなかなか、肥料や農薬が抜けていかないため、自然栽培における果樹は時間がかかると考えていました。

 しかし、道法さんの取り組むせん定では、毎年、新しく生える立ち枝を残すことができます。それによって、枝をどんどん若返らせていくことができるのです。

 立ち枝が伸び、次に実った実の重さでしなってきます。このことすら通常は立ち枝を切ってしまうので想像もできない。しかし、立ち枝は確実にしなってくる。そして翌年はそのしなった枝の上側から立ち枝が出るのです。

 他にもさまざまなことがありますが、樹の状態を健康に勢いを持って保つことができる。これにより肥毒の残った古い枝、葉を落とすことができる。下枝なども、切り払いますが、枝を枯らして落とすのにも、実は樹はものすごくエネルギーを使っています。それを人間が剪定してやることで助け、豊かに実を実らすことに樹は集中できるようになります。

 そうすると、通常、一年置きに実る年と実らない年がある「隔年結果」といわれる状態がなくなってきます。そう毎年、実るようになってくるというのです。


■一般の農家が認めざるを得ない実態
 道法さんの指導されている熊本県の吉田勝也さんも、最初は半信半疑。しかし、実際やってみて結果が明らかに違うので、納得せざるを得ないと言います。

 田中祐二さんは、農協のリーダーでした。道法さんとは高校の先輩後輩の仲。それでも、田中さんが道法さんのせん定を取り組もうと決意されたのは、2009年のこと。やり始めてこれでいけるという確信を、年々深められています。

 そんな農家が全国にいらっしゃいます。ホルモンで育つなら肥料は、徐々に減らしていける。肥料を入れない方が病気にはならないのは明らか。だから農薬も減らしていける。そのことを一般の農家さんが、果樹の樹の実態から納得されている姿が刺激的です。


■道法さんとの出会い
 動きを見極める 道法正徳さんは、広島県の果実農業協同組合連合会で、果樹の農業技術指導をしながら土日百姓を実践されていました。

 これまでの、果樹栽培技術とは180度違う、樹の生態を活かした栽培を実践・指導されています。「川田建次」というペンネームで、農業の専門誌、『現代農業』(農文協)の2007年12月号、2008年3月号他でも取上げられています。また、単行本『高糖度連産のミカンづくり』(農文協)も発刊されています。

 この道法さんと、2007年に知り合う機会を得ました。

 ナチュラル・ハーモニーの銀座店を訪問してくださり、弊社代表河名の著書『日と水と土』を読み、強く共感してくださったそうです。自分の求めていた方向性は、まさしくこの自然栽培と同じだと感じてくださったのです。

 肥料・農薬を使わない自然栽培をただ理想として取り上げるのではなく、道法さんは樹にとってどうしてあげることが良いのかを求めていく中で、果樹が肥料で育っているわけではないことに気づかれました。そして実践しながら確認して来られたのです。

■ 道法 正徳氏からのメッセージ
 広島果実連での、農業技術指導員として指導する中、今までの農法が通用しないことを経験し徹底して反対のことを行いました。その結果、植物が「N−P−K(チッソ・リン酸・カリ)ではなく植物ホルモンで成長していること、光合成より呼吸作用のほうが大切なことを学びました。
 せん定を変えれば、植物ホルモンのバランスが変わり「肥料や堆肥・農薬を施さない」農法が実現できビジネスになる。この技術を全国に広め、農業の活性化に貢献したいとの思いから、全国各地で剪定の講習会を行っています。
 今までの、常識とは逆のことを行ってきましたが、それは今のままでは農家が幸せになれない現実を目の当たりにしてきたからです。常識を疑い植物、自然を先生にして技術の研鑽をしていきましょう!